<E-B対応とE-H対応の知識>
2007/08/21 日記E-B対応とE-H対応
電場''E'' は、電荷から発する場として自然に定義されるが、磁場に関しては歴史的経緯から二種類の流派があり、現在でも両方が使われている。それが''E-B'' 対応と''E-H'' 対応である。''E-B'' 対応は,全ての磁場は電流から発するとし、基本公式を:とする。つまり,磁束密度''B''を電流素片''Id'' ''l''がうける力として定義するわけである。このとき磁場''H''は,磁性体が存在する場において磁化電流を考えずにアンペールの法則が成立するように便宜的に導入される。一方の''E-H'' 対応は、磁場にもその源になる磁荷が存在し、:
:は方向の単位ベクトル:というクーロンの法則が成立するということを出発点とする。このとき、単位の大きさの磁荷が
発する場が磁場''H''となり、以降の理論展開は電場と全く同じになる。これは、電流の磁場作用が発見される
前から、「磁石」という磁場を発する物体が存在したために自然に現れた概念である。この場合、静電気学で誘電体が存在する場にガウスの法則を成立させるために電束密度''D'' を導入したのと同じ考えで、磁性体の存在する場に''B''が導入される.現代の古典電磁気学では,単極磁荷は存在せず全ての磁場は電流から生じる,としている.磁石が発する磁場の正体は磁石を構成する原子の電子スピンで,すなわち古典的には電流と見なせる.そのため現代の電磁気学教育においては、物理的な描写が正しい''E-B'' 対応が主流を占めている.
しかし,現在でも''E-H''対応を前提とする電磁気学の教科書はあることから,いま読んでいる本が''E-B'' 対応と''E-H'' 対応のどちらで書かれているかを意識することは必要と思われる.''E-B''対応と ''E-H'' 対応の使い分け
では,全ての磁場が電流起源であることが明らかになった現在でもなぜ''E-H'' 対応の電磁気学が生き残っているのだろうか.まず,''E-H'' 対応は間違いかどうかを吟味しよう.現実の世界では,磁荷に相当する存在は磁電子のスピンから生じる(古典的に考えると)ループ電流である.このループ電流が周囲に張る磁場と,正負の磁荷が無限小の距離接近したと考える磁気双極子が作る磁場は全く区別が付かない.従って全ての問題においてE-B対応とE-H対応の電磁気学は同じ答を与えるため,両者は等価なものである.従って「間違いであるから」という立場でE-H対応を否定することはできない,と言うのが現在の古典電磁気学における大勢を占める意見である(これについては後述).E-H対応の電磁気学は,対称性の良さが特徴である.電磁気学の基本方程式であるMaxwellの方程式のうち電場,磁場の回転に関する2式はと,EとHに対して対称である(上述のように,電流に対応する"磁流"はないものとする).従って,静電場の理論を『電荷の存在→電場→静電ポテンシャル→電気双極子→誘電体』と展開するのと全く同じ方法論で静磁場の理論を『磁荷の存在(の仮定)→磁場→静磁ポテンシャル→磁気双極子→磁性体』と進めることができる.また,ここで登場した静磁ポテンシャルはスカラ量で,電流の存在しない,磁石と磁性体のみの系ならば磁場はスカラポテンシャルの勾配で表されることが示される.任意の系において磁荷の分布から磁場を知りたいような問題はこの考え方の方が「電流→ベクトルポテンシャル」より遙かに楽で実用的であり,磁性物性,磁気学の分野ではもっぱらE-H対応が主流である.また,Maxwellの方程式から直接導かれる電磁波も,EとHが直接対応する量となり,例えばMKSA単位系の電場ベクトル[V/m]と磁場ベクトル[A/m]の外積は電磁波がエネルギーを運ぶ方向を向き,大きさが単位断面あたりのパワーを表すベクトル,すなわちPoyntingベクトルとなり,次元もちょうど[W/m^2]である.従って,E-H対応を明示的に謳っているわけではないが,電磁波物理やマイクロ波工学の教科書ではEとHを対応する二つの物理量として扱うのが普通である.''E-H'' 対応は間違いか?
一方で,「E-H対応は間違いであるから使うべきではない」,と強硬に主張する意見も見られる.その代表格が,日本では恐らく元日大教授の細野敏夫であろう.氏の主張は著書『メタ電磁気学』(森北出版)に余すことなく述べられている.しかし,細野氏が電子通信学会に投稿した同じ趣旨の論文が査読者に認められなかったこと(同書あとがき),外国においても同種の論争ががあり,著者と同様の主張が認められている訳ではないと著者自ら述べていること(同書p211)は指摘しておく.細野氏の主張で説得力を持つのは「E-H対応はローレンツ共変|Lorentz共変でないから,物理的基本法則でない」という点である.これは,光速に近い速度を持つ磁石を考える系ではE-H対応の電磁気学は成り立たないということであるが,細野氏の主張ではE-H対応は自動的に単極磁荷と「磁流」がMaxwell方程式に含まれることになっている.これらが,E-H対応がLorentz共変にならない理由である※.これを排すればE-B形式とE-H形式のMaxwell方程式は全く同一になり,どちらもLorentz共変である.つまり,E-H対応の磁気的基本量が磁気双極子(SとNは分割不能)であるとすれば,細野氏の主張に反論できる.※すなわち,古典電磁気学と相対論の範囲では単極磁荷の存在が許されない証明になっており興味深い.また細野氏がまえがきで述べている「E-H対応が間違っているというパラドックス」は,「磁気双極子を作る電流ループは無限に小さい面積を持つため,反対方向に流れる電流は同じ大きさの磁場を感じており,従ってコイルは正味の力を受けることはない」と簡単に論駁できることは指摘しておこう.しかしながら,『メタ電磁気学』は,E-B対応とE-H対応の差異について非常に深く掘り下げた日本語で読めるほぼ唯一の本であり,他にも古典電磁気学のパラドックスに数多く言及した他に類書のないユニークな電磁気学の教科書なので,この問題に興味を持った諸兄は一読の価値ありである.''E-B'' 対応と''E-H'' 対応で表れる違い
"''E-B'' 対応"と"''E-H'' 対応"では「磁石の最小単位」の定義に違いが生じる.この世の磁石の最小単位は言うまでもなく一つの原子(の中の電子のスピン)であるが,これをとの磁荷によって作られる磁気双極子とするのがE-H対応,微小なループ電流とするのがE-B対応である.[磁石の最小単位]E-B対応 : 磁気モーメント [A m]E-H対応 : 磁気双極子モーメント [Wb m]通常,E-B対応による磁石の最小単位を「磁気モーメント」,E-H対応による磁石の最小単位を「磁気双極子モーメント」と呼ぶ.ある原子の発する磁場はどちらのモデルで表現しても同じ空間分布,同じ大きさを持つ.ただし,E-H対応で定義されるのは空間ので,E-B対応で定義されるのは空間のの分布である.古典電磁気学においては,磁性体は多数の磁気双極子(E-H対応)または微少電流ループ(E-B対応)の集合として近似する.磁性体が外部から磁場を受けると,「磁気分極」または「磁化」が生じる.磁化の定義は「単位体積当たり正味の磁気モーメントの密度(E-B対応)」,「単位体積当たり正味の磁気双極子モーメントの密度(E-H対応)」となるが,E-H対応の場合はもっと直接的に「単位断面を通って移動した磁荷の量」と言うこともできる.[磁化または磁気分極]E-B対応 : [A/m]E-H対応 : [Wb/m]E-B対応では,磁化に空間的分布があるとき,そこに巨視的電流密度が現れる.一方のE-H対応では磁化に空間分布があるとき,そこに巨視的磁荷密度が現れる.[磁化の空間分布と巨視的変化]E-B対応 : [A/m]E-H対応 : [Wb/m]そして,この電流または磁荷が磁性体に反磁界を生じさせる.E-B対応における,E-H対応におけるは,この反磁界を取り込んだ形の電磁気学を構築するために作られた物理量である.まずE-B対応から説明する.E-B対応では,磁性体を含んだAmpereの法則はであるが,ここでを利用すれば上式はと変形され,ここでをという物理量とすれば,磁性体を含むあらゆる系でが成立するため,磁化電流を考える必要が無くなる.次にとの比例定数を求める.が小さい範囲においてははに比例し,この比例定数を「磁化率」と定義する.これを利用するととなり,このを「物質の透磁率」と呼ぶ.一方,E-H対応では,磁性体を含んだGaussの法則から巨視的磁荷密度を消去することを考える.ここでを利用すれば上式はと変形され,ここでをという物理量とすれば,磁性体を含むあらゆる系でが成立するため,巨視的磁荷を考える必要が無くなる.次にとの比例定数を求める.が小さい範囲においてははに比例し,この比例定数を「磁化率」と定義する.これを利用するととなり,このを「物質の透磁率」と呼ぶ.[磁化と磁化率の関係]E-B対応 : E-H対応 : [磁化率の次元]E-B対応 : [(無次元)]E-H対応 : [H/m][物質の透磁率]E-B対応 : [H/m]E-H対応 : [H/m]ここで述べた「磁化」,「磁化率」の定義と次元は一例に過ぎない.E-H対応の電磁気学でもと定義し,を無次元量とする教科書は多い.一方でE-B対応でありながら磁化をとしてE-H対応と同じ次元にする教科書もある.「磁化」
「磁化率」の次元については,一応ISOで[]=[A/m],[]=[---](無次元)と定められているが,実際に電磁気学の教科書を見てみるとその基準に従わないものが多数ある.MKSA単位系では全く曖昧さを持たない電流や電荷の次元と異なり,単位系を定めても定義,次元に曖昧さの残る磁化や磁化率には特に注意を払う必要がある.外部リンク
「メタ電磁気学」まえがき
電磁気学教科書における磁化と磁化率の取り扱い
◆E-B対応とE-H対応についてピックアップ
\boldsymbol{\hat{r}}はr方向の単位ベクトル\hat{\boldsymbol{r}}=\frac{\boldsymbol{r}}{r}:というクーロンの法則が成立するということを出発点とする。このとき、単位の大きさの磁荷が 発する場が磁場''H''となり、以降の理論展開は電場と全く同じになる。これは、電流の磁場作用が発見される 前から、「磁...




